SOL帰国生大学受験セミナーの特色について(1) ―SOL帰国生大学受験セミナーについてvol. 93―

(2019年4月18日 14:45)

こんにちは。SOLの余語です。
SOLの帰国生大学受験セミナーでは、生徒一人ひとりに自分が関心を持っている(もしくは、持ちそうな)学問分野に限らず、様々な本を積極的に読むことを奨励しており、教師が読むべき本を推薦することもあります。最近、今年度のセミナーでお勧めの書籍として紹介しようと考えているものを時間がある時に読んでいるのですが、その中で、高校生を含めた子どもの学習について興味深い記述のあるものが二つありました。

一つは、井上智洋氏の「AI時代の新・ベーシックインカム論」(光文社新書)です。この本は、先進国の多くで経済的な格差が広がり深刻な貧困問題が取り上げられる中、有効な対策の一つとして最近、特にヨーロッパで注目されているベーシックインカム(以下、BI)の導入の必要性を提唱するもので、教育とはあまり関係がないと思う人も多いかと思います。しかし、筆者は実際に毎月一定の金銭を個人に支給するBIを試験的に導入したアメリカの自治体で子どもの学力が向上するという効果が見られたという事例をこの本の中で紹介しています。

もしBIの導入と学力の向上に因果関係があると仮定した場合、上で述べたような現象は、家庭に入る金銭の量が増えたため、家庭教師を雇ったり学校外の教育機関に子供を通わせたりすることができるだけの経済的な余裕が確保できたことの結果と考えることもできます。一方で、この実験の実施に携わった研究者や井上氏は、子どもが現在、もしくは将来の自分の経済状態について心配することなく、精神的・時間的余裕を持った形で学習に取り組むことができるようになったことによって、子どもの学習に対する効果が生まれたと主張しています。

もう一冊の本は、新井紀子氏の「AI vs. 教科書の読めない子どもたち」(東洋経済新報社)です。この本は2018年に出版されて以来ベストセラーになっていますので、知っている人も多いかと思いますが、AIが本格的に導入される社会で安定した生活を送るためには読解力や思考力が必要になるのにもかかわらず、それを十分に身に付けることができていない子どもが少なくとも日本社会で多く見られることに警鐘を鳴らすものです。そこで主張されていることには賛否両論あるようですが、AI技術の発展を理解するのにはよい本だと思いますし、子どもの能力の伸長に関する広範囲な調査に基づいた重要な提言を行っている書籍ではないかと考えています。

読解力は、新書などから抜粋された文章を読み、それに対する自分の考えを述べるという形を採ることの多い帰国生入試やAO入試の小論文試験でよい評価を得られる答案の作成に必須な能力の一つです。これをどのように伸ばすかについて筆者は、個人的な体験などを基にして、例えば一つの文章を読む時にじっくりとそれに向き合う経験を蓄積できることが重要であるかもしれないと述べています(まだ科学的な根拠が揃っていないので断言はできないそうです)。

一方、望ましくない学習のあり方の一つとして、文の構造の把握や単語の意味の確認に力を入れることなく、そこに含まれるキーワードだと思われるものをただ拾い上げて、その内容を自分の経験などに照らして推測するといったことを繰り返し行うことが挙げられています。このような文の内容の理解の仕方は、時間に追われていたりストレスの影響を受けていたりというように自分の目の前の課題に集中することが難しい状況で多くの人に見られるものでしょう。

今回の記事で紹介した本に書かれていたことは、どれだけ多くの物事が記憶できたかが評価基準の一つになる一般入試を受験する場合ならともかく、しっかりとした読解力や思考力がよい結果を生む帰国生入試やAO入試を受ける人がどのような環境で学習すべきかということについても重要な示唆を含んでいるものです。次回の記事では、それが何かということを考えてみたいと思います。

それでは、SOLの帰国生大学受験セミナーに関してご質問などお持ちの方は以下のフォームやこちらよりご連絡ください。よろしくお願いいたします。
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