受験する大学や学部・学科の選び方について(13) ―帰国生大学入試についてvol. 258―

(2020年7月18日 14:35)

こんにちは。SOLの余語です。
前回の記事では、「大学で何を学びたいのか」ということを判断する際にその材料を得るための手段として、新聞や本、ラジオなどで大学の研究者が現代社会において人間が生きていく際に直面する問題の中でどのようなものに関心を寄せているかを見聞きすることが考えられるということを述べました。この取り組みによって、実際にどのような問題が学問的な探求の対象となりうるのかについて具体的なイメージが得られると思います。

さて、受験する学部・学科を決める際には、一つ一つの学部・学科で研究者が様々な問題に対する考察を行う際に取っている視点や研究を進めるプロセスのあり方に関してのインプットも必要でしょう。この点においても、大学のホームページやパンフレットなどでは、前回の記事で取り上げた研究活動の対象に関する説明と同様に、抽象的な表現で構成された文章が掲載されるか、ゼミなどの紹介の中で簡潔な説明が見られるだけのことが多く、高校などで大学において学ぶ学問の入門的な授業を履修し、その内容がある程度消化できていない場合に、確信を伴った形で受験する学部・学科を判断できるほど具体的なイメージを持つのは難しいと感じる人がいてもおかしくないと思います。

このような問題に直面した時に頼りになるものの一つが、研究者が自分の専門領域でどのような形で研究が行われているかについて解説している本です。例えば、大阪大学大学院経済学研究科の大竹文雄教授の書いた文章は様々な大学の経済学部などで帰国生入試やAO入試の小論文試験の問題文として用いられていますが、彼の著書に『経済学的思考のセンス』(中公新書、2005年)というものがあります。この本では、前書きの中で経済学という学問は「金銭的インセンティブの有無(もしくは多少)」という観点から、社会現象に関わる様々な要素の中でどこに因果関係が成立しているかを分析するものだという解説がなされた上で、貧困・格差問題といった一般的に経済学で取り上げられるイメージの強い問題だけでなく、「女性はなぜ背の高い男性を好むのか」、「いい男が結婚しているのか」という身近に感じられるものまで、実際に経済学的な手法を用いて考察を深めていく様子を見ることができます(大竹氏の『競争と公平感』(中公新書)や『こんなに使える経済学』(ちくま新書)も同じような作りになっています)。

また、僕は法学部(大学によっては法学部法律学科)で学ぶことを知りたいという人には、立教大学大学院法務研究科の渋谷秀樹教授の『憲法の招待 新版』や、最高裁判者判事の山口厚氏の『刑法入門』(いずれも岩波新書)を読むことを勧めています。これらの本を読むと、例えば憲法学であれば「考え方や生活のあり方が多様である個人の尊厳や自由を政府の干渉などから最大限保障する」という理念の下に、立法の趣旨や社会情勢などの変化に合わせながら、憲法やそれに関連する法律に書かれている条文をその文言に矛盾しない形でどのように解釈していくべきかを検討する学問領域であること(誤解している人が多くいるのですが、日本の大学で学ぶ法学では新しい社会制度のあり方を探っていくことは研究活動の主な対象ではありません)が理解できます。

その他の学問でも、新書のような18、19歳の人でも読みこなすことができる水準の語彙や表現が用いられていて、専門書やハードカバーの本よりは値段も安い形式で、それを専門領域とする研究者がどのような視点からどのようなプロセスを経て考察を深めていくのかを説明したものが出版されています。自分が関心を持てそうな学問について扱ったものを中心に読み進めていくことによって、大学の一つ一つの学部・学科でどのような形で研究が行われているかについて具体的なイメージを持てるようになると思います。

それでは、日本の大学の帰国生入試やAO入試の受験に関してご質問などがありましたら、以下のフォームからご連絡いただくか、info@schoolofliteracy.comにメールをお送りいただければと思います。よろしくお願いいたします。

【教育相談フォーム】
https://www.schoolofliteracy.com/consultation/form.html

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