受験する大学や学部・学科の選び方について(18) ―帰国生大学入試についてvol. 263―

(2020年8月21日 16:25)

こんにちは。SOLの余語です。
前回の記事では、現時点で帰国生入試やAO入試の受験のために行っている対策などについて高いモチベーションを持っている人でも「大学で何を学びたいのか」ということをしっかりと考えておくべきことを説明しました。入試を実際に受けていく中では様々なことが起こることがあるため、必ず最善の結果が出るということが保証されている訳ではないことを踏まえると、できるだけ長い期間持続する強い学習意欲を持っていることが望ましいはずですが、そのためには自分の学問的な関心が向かう先を真剣に検討しておくことが必要です。

さて、4月の終わりから連載してきたこのシリーズですが、今回はその最終回として、日本の大学の9月入学コースへの入学を希望しているケースについて述べたいと思います。このコースの入試は、北半球の高校で学んでいる人が、高校在学中に提出した書類の内容や面接試験だけで合否が判定されるため、小論文試験に向けた準備をしなくてもよいという点で負担が少ない(または、筆記試験を受けることには不確実性がある)と感じるということがあるようです。また、大学でも引き続き英語で教育を受けることがよいと考える人も多くなってきていることもあり、首都圏の有名大学が次々にこのようなコースを設置するのに合わせて、SOLの生徒の中でも受験を希望する人が増えてきています。

このような9月入学コースを受験する場合でも「大学で何を学びたいのか」を検討しておく必要がある僕は考えていますが、その理由の一つは、多くの大学でリベラルアーツ的なカリキュラムを採用していることです。これについては、以前の記事で、このようなカリキュラムを採用する大学には学生を過度に「大人扱い」するところがあり、入学前に自分の学問的な関心が向かう先を確認しておかないと、一つのテーマについて深く考えることなく新しいことをいくつか見聞きしただけで4年間の大学生活が終わってしまう可能性があるということを述べました。しかし、僕が上のように考える理由はそれだけではなく、9月入学コースにおいては多くの学生にとって母語ではない英語を使って専門的な事柄を学ぶことが求められることも考慮しなければならないと考えています。

これまで多くの先進国では、高校から大学に進学する人が自分の学びを展開していく上で直面する問題がいわゆる「高大接続問題」として注目を集めてきており、日本でも大学での学びに強い意欲を持てない、または留年もしくは退学する人が増えている文脈で取り上げられています。その背景には、高校までの教育課程では知的な活動を行っていく際の基礎的な事項を吸収するのに焦点が置かれている一方で、大学での学習においては専門的な単語や概念が多く出てくる文章の内容を理解するだけでなく、その論理性などについて批判的精神をもって分析し、その中で形成された自分の見解を表現することが求められているというように、取り組まなければならない課題の質が異なっているということがあります。

このような問題についてどのように対応すべきかが現在でも議論の的になっています(実際に何らかの対策を導入している教育プログラムも多くあります)が、そこで見られる主張のほとんどは学生が自分の母語で学んでいることを前提にしたものです。母語で抽象的な内容になることが多い大学の授業を受けたりそこで出される課題に取り組んだりすることに難しさを感じる人が無視できないほどいるのであれば、それを外国語で行うことによって学習上の問題を抱える可能性は(特に、英語と言語学上の距離が大きい日本語を母語とする人の場合)より高いものになると言えるでしょう。

実際に、この点を意識してか、早稲田大学政治経済学部のEDESSAではコースを開設してから数年経って、英語だけでなく日本語でも授業が受けられるようになりました(ただ単に、日本では英語を使って授業ができる優秀な教員を十分に確保できないことに気付いただけという可能性もあります)。また、TOEFL iBTやIELTSのスコアが高い人でも大学で与えられた文章をその内容に対して批判的な考察を加えられるほどに理解を深めることが難しいと思うといったことは珍しくなく、これがきっかけとなって大学の授業に積極的な姿勢を持って臨むことができなくなるケースも見られます。

このような困難な状況に直面する可能性があることを踏まえると、(特に、単身留学などの形で3、4年だけ海外での教育を受けた場合には)9月入学コースに進学するかどうかについては慎重に判断すべきですし(海外の大学への進学も同様で、英語で専門的な教育を受けたいのであれば、日本の大学で学んだ後に海外の大学院に行った方が学びの中で問題に直面することが少なくなるはずです)、もしそこで学ぶという決断をするのであれば、受験準備の段階で「大学で何を学びたいのか」ということについてじっくり考えた方がいいと思います。

それでは、次回からは今年度の入試についての情報をお知らせする予定です。日本の大学の帰国生入試やAO入試の受験に関してご質問などがありましたら、以下のフォームからご連絡いただくか、info@schoolofliteracy.comにメールをお送りいただければと思います。よろしくお願いいたします。

【教育相談フォーム】
https://www.schoolofliteracy.com/consultation/form.html

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