学部学科選びについて ―メールマガジン2010年6月1日配信分―

(2013年11月29日 18:00)

こんにちは。SOLの前島です。
SOLは現在、塗装、備品準備など、教室環境の整備の真っ最中です、と5月15日配信のこの場でお伝えしましたが、現在も引き続き整備中です(昨日も女子大学生が一人、髪に塗料をつけつつ奮闘してくれました)。明日やっと教室の机の脚を入手できることになったので、それを天板に付け、大教室の床を塗装すれば、ようやく全体像が見えてくるという状況です。次回配信時には完成の報告が出来るものと思います。


さて、今回は学部学科選びについて述べていきます。今年受験を迎える受験生にとっては、学部学科選びは大学選びと同時に進行すべきものですが、大学選びについては合格可能性・入試日程と合わせて個人的・具体的に詰めていく必要がありますので、今回は触れません。大きく3つの点から述べたいと思います。


1.基本的な考え方
今のように就職難が話題になっていると、大学選びと同様、学部学科選びも就職に有利なように、という視点で行われるのはある意味で当然だと思います。これほど厳しくなる以前は、たとえば文学部が企業への就職という点で法学部や経済学部・経営学部より弱いと言っても、若干の確率の問題でしかなく、要は本人次第、という面がありました。しかし今年は大学間格差、学部間格差が極端に開いていると主張する人もいて、この状況が3年後、4年後も続くなら入学先として男子が文学部を志望するのには勇気が必要だと感じられます。
ただ、よく「法学部なら潰しが効くので、とりあえず法学部に」と言われるのと逆の発想で、「文学部なら潰しが効く」という説得力ある意見もあります。国際政治学者の池内恵氏が父であるドイツ文学者の池内紀氏に言われた言葉だそうで、たしかに、言葉と人間を研究する文学部は、どんな仕事に就いても大学で学んだことを活かせそうです。よく言われるように、どんな仕事もたいてい言語能力と人間理解が非常に重要になるからです。 そもそも、学部学科は基本的に学問の分類に従っていることを考えると、言葉についてはともかく、人間について(そしてそれが形成する社会について)の理解はどの学科も追究しているはずです。なぜなら、学問の違いには扱う対象の違いというより、人間や社会を理解するための切り口の違いという面があるためです。たとえば経済学は経済現象を対象として扱いますが、それは言い換えれば人間を、人間の行う経済活動という切り口から理解しようとしているということです。
そして、そうした切り口には向き不向きがあります。いくら文学部が潰しが効くと言っても、文学という個人的・直観的な人間理解の表現を対象として扱うのはピンと来ない、という人もいるわけです(正確には、向き不向きがあるというより、どういう面がより早くピンと来やすいのかという点に個人差がある、と言ったほうがよいでしょう。ある人は10代で文学や哲学に惹かれるのに、別の人は10代にはそれに全く興味がなく、40歳を過ぎた頃に文学的な人間理解の価値が非常に身に染みてわかるようになる、というようにです)。大学でどんな学問を専攻するかは、それを通して大きく成長することを目指すなら、自分が興味を持てるか、真剣に取り組めるか、という点から決める方がよいに決まっています。成長期には(知的、人間的には大学時代は成長期です)、能力差は興味や熱意や持続的な集中によって簡単に覆るからです。つまり、20歳前後の時期の自分に合った切り口は何か、ということを、学部学科選びの際には考えておくべきです。これには、帰国生入試やAO入試では学部学科への関心・適性が小論文試験や書類・面接試験を通し合否に影響する、という帰国生独自の理由もあります。
では、そうした切り口、言い換えれば関心・適性というのはどのように探ったらよいでしょうか。


2.小論文問題に取り組んで関心・適性を探る
自分の関心・適性を18歳くらいではっきり自覚している人は少数派ですので、高校卒業時期になってもまだ自覚できず、そのため受験する学部学科も決められない、という人は少なくありません。6月卒業で4月入学を目指すなら、それでもよいと思います。受験スケジュールとしては、7月上旬の時点で大学入学資格試験の結果とTOEFLの結果が出願時に提出できるようになっていれば、まだ迷える余地があるからです(理系の学部は除きます)。むしろ、この時期にきちんと迷っておかないと入試直前になって覆る危険性もあるため、一度は迷っておく方がよいかもしれません。入試直前になって覆ることがあるのは、それまでに小論文の学習をするとともに、面接試験用に大学・学部学科について調べ自分の考えを整理していくなかで、当初の志望との食い違いを発見するためです。小論文学習や面接試験準備は自分の関心・適性を自覚する契機になるということです。
面接試験用に大学・学部学科について調べることは、この時期でなくても行えることですし、大学や学部学科についてよく知らない状態で学部学科選びをすることはそもそも不可能なので、早い時期に大学のサイトなど見て各学部学科についての自分なりのイメージを持っておくべきです。一方、小論文学習を通して自分の関心・適性について知るには、指導する教師がいるのが望ましいので、いつでも出来るというわけにはいきません。受験時の6月~7月がその重要な機会だと言えます。
小論文学習を通して関心・適性をつかむには2通りあり、1つは学部学科別に出題される問題に取り組むこと、もう1つは学部学科を問わず出題される問題に取り組むことです。まず、学部学科別の出題については、当然ながらどんな内容で書いたらよいかをイメージしやすい学部学科が自分に合ったものだということになります(どんな出題がされているかは、2010年5月15日配信分を参照してください)。ただ、受験前ならともかく、受験までまだ1年以上ある場合には、まだ知識や理解が追いつかず、本来自分に合った系統の問題であっても、難しくて合わないと感じられてしまうことがあります。
一方、学部学科を問わず出題される問題については、どんな切り口から書きたいと思うかによってその人の関心・適性が窺えます。ただし年齢によって切り口に偏りが出るので、その点も考慮しなければなりません。たいてい若いほど社会的・経済的な視点がまだ育たず、個人的・心理的な捉えかたをしがちです。そのため、たとえば、就職難の報道(小論文問題ではありませんが)に接した際に、就職できない人々の心情にまず関心が向いたからと言って、心理学が向いていると判断してよいかはわかりません。このあたりの判断は、自分では難しいと思います。教師がいるのが望ましい所以です。
ですが一応、私がよく用いる例を引いておきましょう。たとえば少子化という現象について論じることを求める小論文問題があったとします。これに対し、少子化を問題視して対策を論じるのは政治学科向きであり、養育費というコストに見合うベネフィットが現代社会では小さいことを少子化の原因として論じるのは経済学科向きであり、子供1人にかける費用の増大による新たな市場について考えたがるのは経営学科向きです。また、少子化の原因として女性の社会進出を論じ、その際に女性の権利の保障という立場から少子化をやむを得ない結果と捉えるのは法律学科向きであり、同様に女性の社会進出について論じながらも晩婚・晩産化や収入不足で結婚できない男性の増加について着目するのは社会学科向きであり、少子化による家族の変容を論じるのは社会学科・心理学科向きだと言えます。さらに、少子化による親や子の心情の変化に着目するのは心理学科・文学科向きであり、少子化を子どもの生育環境の点から論じたり子どもへの影響として論じたりするのは教育学科または教員養成系学科向きであり、少子化に関わる女性の生き方の多様化や子どもへの影響などを、個人の生という視点から論じるのは文学科向きであり、少子化という具体的現象から人はなぜ子どもを生むのかなど、人間の営みを鳥瞰する視点から抽象的に論じたがったり、人口はすでに過剰なので少子化は望ましい、と個々の社会状況や短期的影響を無視して根源的・大局的に論じたがったりするのは哲学科向きでしょう。
このように、一つの現象でもそれをどういう視点から考えるかには多様性があります。自分に合った視点を小論文学習を通して見出すのが学部学科選びには重要です。


3.関心・適性を探るための読書
小論文学習以外では、読書、特に新書を読むことが関心・適性を確認するのに役立ちます。大学の先生が一般向けに書いたものが多いためですし、実際の入試問題で出題される著者の思想への入門的な役割を果たす著作が多いためです。
さて、関心・適性の探り方ですが、大型書店の新書のコーナーに行き、面白そうと思った本は目次や紹介を確認し、出来るだけ多く購入することが要点です(たとえば10冊くらい)。いろいろ買えば、ほとんど読み進められない本、面白いが難解な箇所があり読了は断念する本などがあり、最後まで興味を持って読めるものは数少ないのが普通ですが、それで構いません。どう読み進められたのか(または読み進められなかったのか)ということ自体が大事な情報だからです。たとえば、話題は面白いはずなのに本自体は面白く感じられず途中で投げ出した本というのは、その著者の探究の手法が合わないということであり、その著者が専門とする学問が合わない(ただし、この場合は専門をやや狭く考えておくべきです)ということです。逆に、難解に感じ途中で断念したが、語り方や考察の仕方が非常にしっくりきて、また読んでみたい、ということであれば、その著者の専門は自分に向いています。
10冊くらいこうした観点で読みかじってみると、自分に合っているかどうかの見極め方が感覚的につかめてきます。17、8歳になれば自分に合った著者の本は新書のような論説であっても読めるようになるものですので、ぜひ試してみてください。注意点は、<読みやすい=自分に合っている>とは限らないことです。本自体の難易度の違いもあるからですが、本の選択が1、2社の新書に偏っていなければ、10冊読みかじるうちにこうした難易度もある程度わかるようになります。岩波新書、中公新書、ちくま新書、講談社現代新書以外の新書には、軽くて読み易すぎるものが多く含まれているため注意してください。



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