北半球の高校生の受験準備に関してvol.7 ―帰国生大学入試についてvol.149―

(2013年1月22日 17:05)

こんにちは。SOLの余語です。
前回の記事では、日本の大学の帰国生入試やAO入試におけるアメリカの教育制度の大学入学資格取得のための統一試験であるSATの受験の重要性に関する一つの言説を取り上げて、その有効性に関して検討しました。その中で、一部の大学を除いて、SATを含めた統一試験や最終試験のスコアが合否の決定に影響力を持っていないということを述べましたが、今回はその点についてもう少し考察してみたいと思います。


以前の記事で説明したとおり、帰国生入試において大学入学資格を取得していることを出願条件の一つとしている大学の代表例として挙げられることの多いのが、帰国生が受験することの多い早稲田大学だと思われますが、僕らの教室の生徒にはその入試担当者が行う説明会に参加した人がいます。彼がその場で自分の提出する高校や大学入学資格取得のための統一試験での成績が合否の決定に際してどれだけ考慮されるのかということを尋ねたところ、それに対する答えは「少しだけ見る」というものであったそうで、彼はこの点で自分にアピールするものがないことを心配していました。


しかし、入試制度の実態を見る限り、この大学が受験生の能力を細やかに測る姿勢を持っているかについては疑問が残ります。例えば、この大学が実施する帰国生入試では、多くの文系学部で小論文や現代文、英語の筆記試験に関して共通の問題が用いられている上に、受験料さえ支払えばいくつでも学部を併願することが可能です。これに加えて、面接試験を行わない学部も多いため、学力の高い人が多く出願する法学部で合格した人が文学部や文化構想学部でも合格することや、理系の学部を志望する人が政治経済学部を滑り止めにすることが珍しくありません(政治経済学部はこの大学においてOBOGの評判の良い唯一の学部だと言えますが、来年度から帰国生入試を止めることになったという話を聞いてホッとしています)。


また、この大学の帰国生入試において、受験者数が年毎に大きく変動することや筆記試験の出題形式に変化があることがあり、それによる影響を受けることがあるものの、TOEFL iBTのスコアや日々の授業での学習状況などによって把握することができる受験生の入試直前の学力や精神面での強さを基に行う合否予測が大きく外れることはありません。このような傾向が少なくとも10年は続いていることは僕らだけでなく、予備校や塾において実際に受験生の指導を担当している人なら実感できるところのはずです(大手のところのように指導する人の数が多い環境の中で一人一人の生徒の学力を正確に把握することは難しいとは思いますが)。


以上のことを考え合わせると、この大学の帰国生入試において大学入学資格取得のための統一試験や高校などの成績が影響力を持っているとは考えづらいですし、その他の多くの大学においても事情はそれほど変わりません(今回取り上げた早稲田大学のような態度で受験生に臨むという大学はさすがに珍しいケースですが、面接試験の際に試験官が提出した書類を初めて目にするという反応を見せるところは数多くあるようです)。実態がよく分からないので、大学受験生の教育に関わる人の全てに特別な意図がないことを前提にすると、今回取り上げたような大学の帰国生入試について、「SATやIBで何点取っていないと合格できない」という発言をする人は、実際に受験生の指導に関わった経験がないために数値という形で残っているものに依拠せざるを得なかったのか、もしくは原因と結果を逆転して捉えるという人間に広く見られる性質に囚われているということになるのだと思います。


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