小論文学習において、「どう書くか」より「何を書くか」を優先することについて② ―メールマガジン2010年8月18日配信分―

(2014年2月18日 10:40)

こんにちは。SOLの前島です。
教室開講後、たまたま建物が大規模修繕に入ってしまい窓外がネットやシートで覆われた状態でしたが、7月末にそれも終わり、やっとパンフレット作成のために写真撮影が出来るようになりました。今日午後、そのために写真家が来てくれます。パンフレットが完成しましたらまたご案内します。


さて、前回、小論文をまず段落構成など形式的な面から習得しようとすることの問題点について述べましたが、今回はそれを入試問題の出題形式という面から補足したいと思います。


小論文入試というと、与えられた主題に関して4、5段落作って意見を論じるものをまず想像しますが、現実の帰国生入試の「小論文」問題は、必ずしもそうなっていません。「小論文問題」というよりは「読解・論述問題」という方が実態に合っていますし、大学によってはその「読解」すらない論述問題である場合もあります。形式的な面から学習して段落構成など意識するよりも、正確な読解が出来る力をつけることと、その読解を踏まえて適切に答えられる力をつけることの方が重要です。
また、受験スケジュールで考えても、形式的な面からの習得を優先しない方が得策です。4月入学用の入試のうち、小論文入試のある大学の中で入試日が早いのは早稲田大、ICU、上智大ですが、このうち学部学科別に内容・形式とも多様である上智大学を除くと、早稲田、ICUの2大学は、自分で段落構成を考えるような出題ではありません。
実際に、まず早稲田大の問題(法学部、商学部、文学部、文化構想学部で必要となります)を3つほど見てみましょう。


<2008年度入学用入試>
左の文章(世界的な食糧危機に対して、「貿易の強化」などの自給率にこだわらない総合的な食料の安全保障戦略を立てると同時に、国内の自給率を高めることや水産資源の管理などに取り組むべきで主張するもの)は、日本の食料安全保障について書かれたものである。この文章を読み、次の2つの設問に答えなさい。
(1)筆者の意見を400字以内で要約しなさい。
(2)筆者の意見を実現可能性という観点も含めて総合的に検討し、納得できる点と納得できない点について具体的理由をあげてあなたの意見を600字以内で述べなさい。
 

<2009年度入学用入試>
左の文章(『世界思想』2007年春、34号に掲載された岸上伸啓「自然のカレンダー」より抜粋:人間にとって時間とは物理学的な尺度で測りうる絶対的なものではなく相対的なものであるにも関わらず、現代の日本人は時の流れを物理的な感覚で切断した人工的な時間である欧米時間に束縛されて生きている。それと対照的に、かつてのイヌイットは1年を身の回りの自然の変化をもとに分節した「自然のカレンダー」を持ち、自然条件に従って臨機応変に活動する現在志向性が強い、という内容)はイヌイットの人々の時間とのかかわりや考え方について書かれたものである。この文章を読み、次の2つの設問に答えなさい。
(1)問題文の傍線部Y「欧米時間」を説明し、その「欧米時間」との関係で、イヌイットの人々の時間とのかかわり方を要約しなさい。さらに、傍線部X「現在志向的」とはどういうことかを述べなさい。あわせて400字以内で記述すること。
(2)筆者は、左の文章に続く箇所で、人間にとっての「豊かさ」に思いを馳せています。著者が考える「豊かさ」とはどのようなものであるかを左の文章の文脈に沿って読み解き、書きなさい。さらに、そうした筆者の考え方に賛成か否かを、その理由も挙げつつ、なるべく具体的に述べなさい。あわせて600字以内で記述すること。


<2010年度入学用入試>
左の文章(コミュニケーションの形式の変容が、例えば肉声によるコミュニケーションが中心であれば「記憶しやすい型に基づいた思考」を、文字によるものが中心であれば「線的に展開する思考」をするようになるという形で、人々の思考形式の変化に連動しているとするウォルター・オングのメディア論の提示した視点が、携帯電話の文字メールに代表されるような「話すように書く」メディアの普及が人々に与える影響を捉えるのに有用であることを主張するもの)は、現代のメディア状況と、メディア研究のあり方について述べたものである。この文章を読み、次の二つの設問に答えなさい。
(1)筆者の指摘する「もう1つの問題」(傍線部)とは何か。また、その問題に注意することで、どのような研究の視点が得られると筆者は述べているか。400字以内で説明しなさい。
(2)筆者は声の文化と文字の文化の連動を考えるメディア現象として携帯電話を例にあげているが、それ以外の例をあげて、あなたなりの考えを400字以内で述べなさい。


いずれも(1)と(2)の2題が出ていますが、そのうち(1)は与えられた文章の読解の問題です。自分の意見を入れる余地はありません。そして、自分の意見が求められている(2)についても、どんなことをどんなふうに書くべきかについて、明確な指示が出ています。その指示に従って書けばよいだけであり、自分で構成を考えようとすると却って失敗します。設問だけ見れば比較的自由度が高いように見える2010年度問題の(2)でさえ、「あなたなりの考え」とあるものの実際には与えられた文章の理解と同意を示せば合格であり、文章読解以外で頭を使うのは、文章の理解に基づいた適切な例を探すことだけです。書き方・構成としても、声の文化と文字の文化の連動について自分なりに(山口氏の表現を写さずに)説明する段落と、その具体例を示す段落を作るだけでよく、それ以外に導入部など余分な段落を作ろうとすると(つまり、いわゆる小論文の型として習うものを実現しようとすると)、失敗します。


次に、ICUの問題について、入試時期が9月に移ってからの2年分を見てみましょう。


<2009年度入学用入試>
(食糧価格高騰に関する簡単な記事が与えられていますが、以下の問いの答えに利用できる情報は含まれていません)
問1 食糧価格高騰の危機が日本、世界の(1)政治・経済、(2)文化・社会、(3)自然環境に及ぼす影響を、それぞれ具体例を少なくとも一つ挙げて説明しなさい。
問2 最近の食糧価格高騰の主な原因だと思われるものを(1)需要面、および(2)供給面とに分けて、それぞれ具体例を少なくとも一つ使って説明しなさい。
問3 食糧危機を克服するものとして、問1と問2の分析から(1)短期的、(2)中・長期的な対策を提案しなさい。


<2010年度入学用入試>
(脳死による臓器移植に関する簡単な記事が与えられていますが、以下の問いの答えに利用できる情報は含まれていません)
問1 脳死による臓器移植の是非について、以下の問に答えなさい。
(1)移植を待つ人の立場から、臓器移植の是非について論じなさい。
(2)自分が大切に思っている人の臓器移植について、是非を論じなさい。
(3)総合的に考えて、臓器移植の是非を論じなさい。
問2 「脳死を人の死とする」ことの是非について、以下の問に答えなさい。
(1)自分が脳死判定された場合の「脳死=死」について、是非を論じなさい。
(2)身近な人が脳死判定された場合の「脳死=死」について、是非を論じなさい。
(3)総合的に考えて、「脳死を人の死とする」ことの是非を論じなさい。
問3 臓器提供に関する意思表示の問題について、あなたの意見を述べなさい。


どちらも早稲田大以上にいわゆる小論文の型を意識していては書けない問題で、90分という試験時間の中で7つの問いに答えることが求められています。導入部となる段落を作る必要は全くなく、問われていることにすぐ答えなければいけません。実際に受験した生徒の中には、2009年度はいわゆる小論文の型の通りに、「昨今、小麦の生産量の減少などにより、各国で食糧価格が高騰している。そのことがもたらす政治・経済、文化・社会、自然環境への影響について、以下で論じたいと思う。」などという導入部の段落を問1に対して作り、その後それぞれの影響を述べる段落を3つ作り、最後に全体のまとめとなる段落を作る、という5段落構成で答えた生徒がいましたが、その書き方では問3まで終わらず、不合格となりました。
その生徒は時間さえあれば合格答案が書けたのかもしれませんが、時間があっても「小論文の型」を作ることが意識の上で優先されて、答えねばならない点の1つが不十分な内容となる、ということはよくあります。それを避けるため、問1であれば、「政治・経済への影響は」として第1段落を始め、「文化・社会への影響」、「自然環境への影響」をそれぞれ1段落を使って述べる3段落の解答にすべきです。


このように、入試の早い時期に、いわゆる「小論文の型」に囚われていてはうまく解答できない2大学の入試がある(しかも、この2大学は上智大と並びもっとも帰国枠受験生の多い大学です)ことも、小論文学習を「書き方」の習得から始めるのが得策ではない理由です。SOLの大学受験セミナーでも、7、8月は(上智大対策を除き)問われていることに直截に答える練習をしています。


今回はここまでとします。次回はこの2回の続きとして、SOL大学受験セミナーの小論文授業で扱った内容についてお伝えします。


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