帰国生入試の受験準備を行うのに最適な環境とは?vol.24 ―帰国生大学入試についてvol.93―

(2012年7月3日 19:45)

こんにちは。SOLの余語です。
「帰国生大学入試について」のvol. 79からvol. 92では、帰国生入試やAO入試の受験準備の様々な側面を取り上げながら、授業に参加する生徒の多い環境(これが一般的に信用性の高いものとされます)が受験生の能力を最大限に伸ばし、受験生活を充実したものにすることが可能なものなのかということを検討してきました。その内容は、小論文試験や英語試験に向けた学習、そして帰国生入試やAO入試に特有な筆記試験対策以外の準備という受験準備における局面に合わせて、以下のような3点にまとめることができます(一つ一つの項目の文の後にあるカッコ内にあるのは各記事へのリンクです)。


・小論文の学習においては、できるだけ多くの人とコミュニケーションを取る機会を持ち、自分の書いた文章の「読み手」と成りうる人についてのイメージを形成することが重要だが、「人数の多い環境」ではアイデンティティや趣味・志向が似た人がグループを形成する傾向がある。また、内容的に深みがあり、自分なりに考察をしたことが窺える小論文を書く能力を習得するためには、生徒からの質問や意見の表明、小論文の書き直しといった生徒の自発的な試みの全てに対応できるような時間的・精神的余裕を教師の側が有していることが必要である。しかし、現代の日本社会には小論文指導について豊かな経験を持つ教師が多くいないため、「人数の多い環境」では生徒に論述力を伸ばす機会を十分に与えることが難しい。(vol. 79808182838485


・帰国生の英語試験に向けた学習指導を行う際には、習得すべき学習事項や学習に対するモチベーションといった点で、帰国生が日本の一般的な高校生に比べて多様な問題に直面する可能性があり、人によって実際に困難に感じている事柄も異なるということに留意し、個別的なサポートをする必要があるが、「人数の多い環境」ではそれを期待することはできない。(vol. 8687


・帰国生入試やAO入試には、生徒の答案の出来を客観的なスコアの形で評価することが難しい小論文試験が筆記試験の科目の一つとなっているのが一般的であり、また生徒の学問的適性は小論文をどのような切り口で書くことが多いのか(もしくは、最も説得力のあるものを書くことができるのか)という観点で判断するのが確実であるため、進路指導については小論文の授業を担当する教師が大きな役割を果たすべきである。これは面接試験対策や志望理由書の作成の指導についても同様であるが、「人数の多い環境」では小論文の教師が授業外の指導に関わるだけの余裕がない。これに合わせて、入試の当日に最大限の手中力を発揮するには、日頃から試験の開始時間に合わせた生活リズムを維持することが必要だが、「人数の多い環境」では、授業に遅刻したり、欠席したりすることに生徒が罪悪感を抱きにくく、また海外にいる人と頻繁に連絡を取らなければならないという帰国生特有の事情から、生活リズムを崩してしまう人が出てくる可能性が高い。(vol. 8889909192


ところで、「競争的な環境」の妥当性について考察をした「帰国生大学入試について」のvol. 78で、昨今、塾や予備校を「教育産業」の中で経済活動を行う主体と位置付ける向きがあることを述べました。実際に、この10年間で多くの塾や予備校が系列グループを形成したり、資本提携関係を築いたりするなど、製造業やサービス業などの民間企業と同様の動きを見せているようで、新聞や経済誌でその特集を目にする機会も増えたように思います。


このような潮流を「スケールメリットの追求」(一般的な企業では生産や販売の規模を拡大することが原材料の調達コストの抑制や生産の効率化につながり、最終的により大きな売り上げや利益を生み出すことになると言われていますが、これが「スケールメリット」と呼ばれるものです)として高く評価する専門家もいます。しかし、これがある塾や予備校に集まる生徒の人数を増加させる一方で、教師の人数や教材作成にかかわるコストを低減させることを意味するのであれば教育機関としての役割を十全に果たせることになるのか疑問が残りますし、これまで述べてきた通り現代の日本社会で十分に指導経験を蓄積した小論文の教師を確保することが難しいのであれば、少なくとも日本の帰国生入試やAO入試を受験する人には悪影響しかない現象だと評価できるものです。


この点で、受験準備を行う環境を選択する際には、候補となっている塾や予備校が経営規模を拡大するような形で日常的に活動しているかを一つの判断基準とするのがよいと思います。


それでは、帰国生入試やAO入試の受験日程が公表されてきていますので、次回からはその情報をお知らせする予定です。なお、今回の内容に関して、ご質問などがありましたら、以下のフォームよりご連絡ください。


【お問い合わせフォーム】
https://www.schoolofliteracy.com/contact/



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