受験する大学や学部・学科の選び方について(2021年版)(2)―帰国生大学入試についてvol. 291―

(2021年3月26日 19:00)

こんにちは。SOLの余語です。
前回の記事では、不条理と思われる物事が多く見られる社会で生活するには、自分が時間や手間を忘れて取り組むことのできるものがあることが重要であり、大学受験という段階で「自分が学問的な関心を抱けるものは何か」を検討することがそのようなものを見つけることにつながるということを述べました。大手の予備校の有名な師が「大学受験とは忍耐力を付けるための機会である」と述べていると聞いたことがありますが、夢中になれるものが一つもなくただ歯を食いしばって何かに耐えることは精神の健全性を害すことにつながる可能性がありますので、「学んでいて面白い」と感じるものは何かをじっくり考えた方がいいでしょう。

さて、最近、「自分の子供には理系の学部に進んでもらいたい」という保護者の声に接する機会が増えました。日本の近現代史に関する本を読むと、社会が危機的な問題に直面する度に理系の学問に関係する研究が重視され、その一翼を担う人を育成しようという熱が人々の間で高まる傾向があることが分かりますが、現在の日本社会においても経済的に不安定な状態が長期化しており、所得や資産の格差が深刻なものになりつつある中で、技術的なイノベーションを生み出す能力を身に付けることによって安定した生活を子どもに送ってほしいという願いを持っている大人がいるようです。

そのような周りの大人からの強い要望を受けた人の中には、海外の高校の授業の中では言語的な問題を感じることが他の教科よりも少ない数学が内容を理解しやすく成績もよかったという体験を踏まえて、大学受験において理系の学部・学科への入学を志望するという人が見られます。

しかし、特に高校入学の段階で海外への単身留学をした人の多くが感じていることだと思うのですが、上で述べた言語的な問題に加えて、少なくとも英語圏の国々と日本の中学校、高校における数学教育のあり方には大きな違いがあります。例えば、前者では授業で取り上げられる学習事項の範囲が狭い上に、テストでも微分積分まで処理することができる計算機を使えたり、そこで出される問題に関連した数式などが一緒に提示されていたりすることがあるため、日本で中学校の課程でそれなりの成績を取ることができた人にとっては比較的取り組みやすいものに感じられるということになるのです。

日本の大学はこのようなカリキュラム上の違いが在籍していた高校の教育制度によって存在することはそれほど重要なものと考えておらず、帰国生を対象とした入試でも一般入試において出題するのと同じ水準のものを出題しますし、試験を実施する方式も同様の形を採っています。そのため、海外で日本人が経営する塾などに通う機会がなかった場合、受験に向けた準備は、短い期間で海外の高校で学ぶことができなかったものを一気に習得し、問題演習を集中的に行うことで出題形式への対応力で身に付けるという形になることが多く、学習者にかかる負担も大きなものになりがちです。それに、大学や学部・学科によって、物理や化学、生物などの対策が加わることを考えると、理系の科目に関するかなり強い学習意欲がないと自分の能力を入試で求められる水準まで引き上げることは難しいということになると思います。

以前の記事でも述べた通り、未来の社会において現在と同じものが強く求められるとは限りませんし、文系の学問には科学の発展のあり方を定めていくなど固有の重要性があります。帰国生入試などで理系の学部・学科の受験を考えている人は、今までの学習のあり方や現在の学力だけでなく、そこで扱われている学問を学ぶ意欲が自分にどれだけあるのかということをじっくりと検討して、受験における方向性を決めるようにしましょう。

<「受験する大学や学部・学科の選び方について」の各記事へのリンク>
「帰国生大学入試について」vol. 252253263
帰国生大学受験セミナーの生徒と話していると、「大学で何をしたいかよく分からないのでリベラルアーツ的なカリキュラムを採用する大学に行きたい」と言う人がいます。これらの記事は、このようなカリキュラムの大学(各大学の9月入学プログラムを含めています)を受験する場合でも、自分の学問的な関心の向かう先を考えておくべきということを述べたものです。

「帰国生大学入試について」vol. 262
上でも述べた通り、大学受験では思い通りの結果が出ない場合もあります。そのような観点からも、受験する大学や学部・学科を選択する際には自分の学問的な関心がどこにあるのかを確認すべきという話をしています。

それでは、日本の大学の帰国生入試やAO入試の受験に関してご質問などがありましたら、以下のフォームからご連絡いただくか、info@schoolofliteracy.comにメールをお送りいただければと思います。よろしくお願いいたします。

【教育相談フォーム】
https://www.schoolofliteracy.com/consultation/form.html

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