受験する大学や学部・学科の選び方について(2021年版)(7)―帰国生大学入試についてvol. 296―

(2021年4月30日 19:40)

こんにちは。SOLの余語です。
前回の記事では、日本語を母語とする人が英語を主な使用言語とする大学に進学することは望ましいことかという問題に関連して、日本の(特に私立)大学の文系学部で学生の知的な成長を促すような体制の整備がなかなか進まないことを批判しました。その社会的な責務を果たすための取り組みがなされているところもあるので、自分の志望する学部・学科がそのような条件を満たしているのか確認したい人にはこの記事の最後にリンクが張ってあるフォームなどから連絡してもらえればと思いますが、時代の変化に合った高等教育を受ける機会が全ての人に与えられているとは言い難いのが日本社会の現状だと思います。

この点、日本の大学は、海外からの留学生を増やすことによって大学の国際的なランキングを上げたいという文部科学省の意向に加えて、グローバル化する社会の中で価値がある労働者になるための学びをさせたいという保護者などの要望に応える形で、英語で授業を行う9月入学プログラムを次々に設置しています(僕らでも全てのものを把握することが難しく感じられるペースです)。海外の高校を卒業する人が帰国生入試やAO入試で見られるような小論文試験を受験しなくても済むということから出願するケースも急激に増えていますが、僕はこのようなプログラムの創設を大学が上で述べたような社会的な責務を果たす際の適切な対応と考えてよいのかどうかに疑問を持っています。

その理由としては、「帰国生大学入試についてvol. 292」から「vol. 294」までの各記事で述べたような学習上の負担や「知識基盤社会」への適応が難しくなる可能性があるという問題だけでなく、学生の知的な成長を支える優秀な教員をこのようなプログラムのために確保することが難しいのではないかと考えられることがあります。今回取り上げている英語で専門的な学びをするプログラムは現在、英語圏の国だけでなくヨーロッパの国々でも見られますし、中国や韓国、タイといったアジアの新興国、石油産業に依存した産業構造からの脱却を目指す中東地域の各国の大学でも数多く創設されています。その結果、優秀な教員の獲得競争が激しいものになっていると言われていますが、そのような競争に勝ち抜くには高い年収や豊富な研究資金、恵まれた研究環境を提示できることが必要になります。

しかし、日本では、もともと教育分野への国や地方公共団体の資金的な援助が十分なものでなかったり、授業料を各家庭が負担する割合が他国に比べて高かったりすることなどから大学の財政的な基盤がそれほど強いものではなかった上に、バブル崩壊やグローバル化への対応の遅れなどから長期に不況が続いていることも相まって、日本の大学が教員獲得のための国際競争で優位に立てる状況にあるとは思えません。実際に多くの大学が文部科学省の意向に従ったのはそれによってより多くの助成金が支給されるという仕組みが採用されていたことが一つの要因ですし、首都圏にある有名私立大学で国際的に評価が高い海外の大学から教員を招聘することにしたところ、彼らの要求に対応しようとする中で大学全体が大きな財政問題に直面することになったという話も聞いています(偶然かもしれませんが、その大学では同じ時期に外国語の授業を担当する日本人の講師を人材派遣会社から来た人と置き換えたことが新聞などで取り上げられていた記憶があります)。

このような事情が背景にあるのか、日本の大学の9月入学プログラムでは日本人の教員が英語で授業をすることが少なくないのですが、元々日本語での授業を担当してきた人が多いため、彼らの授業に参加したOBOGが「授業の内容がよく分からない」「日本語で授業をすればいいのに」と言っているのをよく耳にします。また、その結果なのだと思われますが、このプログラムは外国人留学生からも人気がなく、出願する人のほとんどが日本人であることも珍しくないですし、ある大学では学生を集められる見込みのありそうな国や地域はどこかということに関して試行錯誤を続けているようです(ある国に事務所を開設しても成果が出なかったので他の国に移すということが繰り返されていると関西にある大学の担当者が嘆いていました)。

僕は以前から、日本の教育政策(全ての政策に共通すると言ってもいいかもしれません)には現実的に実施が可能なのかという視点が抜け落ちていると考えてきましたが、この英語で授業を行う9月入学プログラムもその表れの一つです。これを維持するための資金は全ての人が知的な成長を遂げることができるものに投じるよう日本の文部科学省や大学に求めるべきですし、受験生が小論文試験の対策が面倒だというような理由でこのプログラムを選択するのは望ましいこととは言えないように思います。

それでは、日本の大学の帰国生入試やAO入試の受験に関してご質問などがありましたら、以下のフォームからご連絡いただくか、info@schoolofliteracy.comにメールをお送りいただければと思います。よろしくお願いいたします。

【教育相談フォーム】
https://www.schoolofliteracy.com/consultation/form.html

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