受験する大学や学部・学科の選び方について(2021年版)(3)―帰国生大学入試についてvol. 292―

(2021年4月2日 19:25)

こんにちは。SOLの余語です。
前回は、近年、子供に大学で理系の学問を学んでほしいと望む大人が増える中で、帰国生入試やAO入試を受験する人がその要望に応える形で進学先を考えることも同様な傾向にあるようですが、このような判断は慎重に行うべきということを述べました。海外と日本の高校の理系科目の授業では扱う内容や問題の取り組み方に違いがあり、受験に向けた準備が学習者に大きな負担をかける可能性があるというのがその理由です。

先日、オーストラリアの高校に通っている人とオンラインで授業をしている際、彼から「最終学年になってから高校の授業で扱う内容が突然難しくなったように感じられて、毎日の課題をこなすのが苦痛である」という話を聞きました。これは、海外に単身で留学した人に限ったことではなく、日本の教育機関で学ぶ人が中学校に入学した時点から後に直面することが多いと言われる問題で、高校から大学に進学した段階で生じるものは「高大接続問題」と呼ばれ、大学生の学習意欲を高めるために対策が必要であるという指摘が大学教育に関わる人々からなされることがあります。

大学での学びにおいては一つ一つの学問領域で特有の用語や概念が用いられますし、何らかの問題に関する分析などもそれ以前の教育機関でのものに比べて遥かに精密な形で行われます。そのようなことを考えると、自分の母語で授業を受けられる環境で学んでいても上で述べたような問題に直面してもおかしくないですし、外国語でそのような学びをすることでその可能性は高まり、学習者に大きな負担がかかることが考えられます。例えば、経済学においてインフレーション(inflation)は基礎的な概念の一つになりますが、この現象は日本語や英語で以下のように定義されます(Wikipediaより抜粋)。

「経済学では、一定期間にわたって経済の価格水準が全般的に上昇することをインフレーションと呼ぶ。一般的な価格水準が上昇すると、1単位の通貨で購入できる財やサービスの数が減る。その結果、インフレーションは1単位の通貨あたりの購買力の低下、つまり経済における交換手段や会計単位の実質的な価値の低下を反映する。」

“In economics, inflation is a general rise in the price level in an economy over a period of time. When the general price level rises, each unit of currency buys fewer goods and services; consequently, inflation reflects a reduction in the purchasing power per unit of money – a loss of real value in the medium of exchange and unit of account within the economy.”

このような概念を自分の母語で理解しようとする場合には「財」や「会計単位」といった専門用語を調べるだけでよいと思われますが、日本語を母語とし英文を読解する際に何らかの問題が見られる人が英語で書かれた定義で述べられていることを正しく把握するには、まずは文の構造や単語、そしてその後に文全体の内容や専門用語の意味を確認するというように2つの段階を踏むことが求められます。基礎的な概念でもこれだけの手間がかかるのですから、内容が難しいだけでなく、一つ一つの文の構造が複雑であることが多い英語圏の研究者の論文を読んだ上でその分析や主張のあり方を理解する(その上、大学ではそれを批評することも求められます)プロセスによって非英語圏出身の学習者にかかる負担やストレスが大きいものになるということはそれほど不思議なことではないように思われます。

実際に、TOEFL iBTやIELTSのスコアが高い人でも、これらの負担から学習意欲が減退したことが原因で最終的に英語圏の大学を退学することになったというケースは珍しくありません(SOLの帰国生大学受験セミナーにも日本の大学への再入学を目指すという人がこれまで何人も在籍しています)。グローバル化が進む現代社会において、英語圏の大学(もしくは日本の大学の英語プログラム)で学ぶことが望ましいと考える大人が増えているようですが、どのような言語を使って専門的な学びをするかについても慎重に判断すべきだと思います。

<「受験する大学や学部・学科の選び方について」の各記事へのリンク>
「帰国生大学入試について」vol. 254
人間が自分の将来のあり方を正確に予測するのは難しいことです。この記事では、「自分の学問的な関心」を探る際にどの時点の「自分」を基準にすべきかということを考えたものです。

「帰国生大学入試について」vol. 255
自分が受験する大学や学部・学科についてなるべく早く判断すべきと周りからプレッシャーをかけられている人は少なくないと思いますが、僕らはできるだけじっくりと考える方がよいと考えています。この記事では、帰国生入試やAO入試が実施される時期を踏まえて、最終的にこのような判断をするべき時期について説明しています。

「帰国生大学入試について」vol. 256
「自分の学問的な関心」について考える際には、周りの大人が大きな役割を果たしますが、的確なサポートをできる人には一定の条件があります。この記事はその条件とはいかなるものかについてのものです。

それでは、日本の大学の帰国生入試やAO入試の受験に関してご質問などがありましたら、以下のフォームからご連絡いただくか、info@schoolofliteracy.comにメールをお送りいただければと思います。よろしくお願いいたします。

【教育相談フォーム】
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