受験する大学や学部・学科の選び方について(2021年版)(4)―帰国生大学入試についてvol. 293―

(2021年4月9日 18:45)

こんにちは。SOLの余語です。
前回の記事では、大学で見られるような専門的な学びを日本語を母語とする人が英語で行うことには学習者に大きな負担がかかる可能性があるため、どのような言語が主に用いられる環境を選ぶかについて慎重に検討すべきということを述べました。実際にこのような負担が一つの要因になって英語圏の大学を退学するというケースはTOEFL iBTやIELTSのスコアが高い人でも見られますので、4年間の大学生活を充実したものにするには何が必要なのかを現実的に考える機会を持つようにしましょう。

さて、先日、学習院大学の佐藤学氏が書いた『学校を改革する 学びの共同体の構想と実践』(岩波ブックレット)という本を読んでいたところ、先進国が「知識基盤社会」という方向に進んでいくと述べてある項に以下のような文章がありました。

「先進諸国が産業主義社会からポスト産業主義社会へと移行して労働市場が大きく変貌し、生産労働に従事する労働人口が激減し、知識情報産業の労働市場(情報、経営、金融)と対人サービスの労働市場(福祉、医療、教育、文化)が飛躍的に拡大している。この変化に対応して知識が高度化し複合化し流動化しており、学校教育は生涯学習の基礎として、将来にわたって学び続ける基礎教養を形成し、学びの主体としての学習者を育てる必要に迫られており、創造的な思考や探究を行い、他者と協同するコミュニケーション能力を育てることを要請されている。」

日本では、グローバル化が進む中でこれまでの経済を支えてきた製造業が激しい国際競争に晒され、非正規雇用の導入や生産拠点の海外移転を行うことを通じて、そこで吸収されていた雇用が収縮していると言われています。このような状況を踏まえると、他の先進国と同様に「知識基盤社会」化していくのは間違いないことのように思われますし、すでにサービス業など非製造業で働いている人が全労働者の7割近くになっているというデータなどを見ると、このような社会状況の変化に合わせた学習環境を作り出す取り組みは緊急性の高いものとも考えられます。

大学は元々ある時点で当然とされていることの妥当性を疑い真理を探究するために生まれた教育・研究機関ですので、「知識基盤社会」に合った学びを行える場であるはずですし、今後もその色彩を強めていくべきだと思います。そして、これまでの理論の問題点を克服する、もしくはそこで扱われていない事柄にも対応した新たな考え方を生み出していくことが大学やそこで学んでいる人に期待されるということになるのですが、日本語を母語とする人が英語を主な使用言語とする大学で学ぶ場合には、上で述べたような形で社会に貢献する能力が身に付かない可能性が人によってあるというのが憂慮される点です(誰もが社会に貢献すべきだと僕は考えていませんが、他人に自分の存在や価値を認めてもらうことが毎日を楽しく過ごすための条件の一つと考えている人は少なくないはずです)。

現在、英語圏の高校で学んでいる人やその経験がある人には理解できると思うのですが、そこでは前回述べたような大きな学習上の負担がある上に、日本の高校よりも多くの課題が出されるのが一般的です(単身で高校から留学した場合には、日常生活の中で自分の母語とは異なる言語でコミュニケーションを取ることに順応しなければならないという課題も加わります)。このように精神的もしくは時間的な余裕がない状況では、自分が見聞きしたものの内容を隅々まで理解することが難しいと感じて、学んでいることなどに関して「フワッと」理解したという状態で流してしまうことがよく起こりますし、より専門的な大学での学びにおいては、学生がこうした形で大学での生活を送る可能性は高まります。

しかし、「知識基盤社会」の中で求められることを満たしていくためには、例えばある学問領域において有力とされている学説やそれに対する批判の内容を十分に理解しなければなりません。このようなことを考えても、これからの社会を担う若者がどのような言語が用いられている環境で専門的な学びをするのが適切なのかは慎重に検討すべきことなのだと思います。

<「受験する大学や学部・学科の選び方について」の各記事へのリンク>
「帰国生大学入試について」vol. 257258
受験する大学や学部・学科を選ぶ際には、現代社会でどのようなことが問題になっているのか、そして各学部・学科ではどのようなことを学ぶのかについて情報のインプットが必要です。これらの記事では、その手段としての読書の重要性を説明しています。

「帰国生大学入試について」vol. 259
この記事では、大学で扱われるような問題に関する本を読む際の注意点について述べています。

それでは、日本の大学の帰国生入試やAO入試の受験に関してご質問などがありましたら、以下のフォームからご連絡いただくか、info@schoolofliteracy.comにメールをお送りいただければと思います。よろしくお願いいたします。

【教育相談フォーム】
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